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金沢地方裁判所 昭和57年(ワ)252号

原告

岡良昭

右訴訟代理人弁護士

梨木作次郎

加藤喜一

被告

株式会社達田タクシー

右代表者代表取締役

達田久夫

右訴訟代理人弁護士

菅井俊明

主文

一  原告が被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、昭和五五年六月以降毎月二八日限り金二一万三〇三七円を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、一般乗用旅客自動車運送業を営む株式会社であり、原告は、昭和五〇年一二月、被告にタクシー運転手として雇用されたものである。

2  被告は、原告を解雇したとして、昭和五五年五月二三日以降原告が被告の従業員の地位にあることを争っている。

3  被告が支給する賃金は、毎月二〇日締切りで当月二八日払いであり、原告の昭和五五年一月から同年三月までの一か月当りの平均賃金は二一万三〇三七円である。

4  よって、原告が被告に対し労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、被告に対し昭和五五年六月以降の賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3は争う。

三  抗弁

1  被告は、原告に対し、昭和五五年四月二三日、同年五月二二日に解雇する旨を予告する意思表示をし、右意思表示は同年四月二四日原告に到達した。

2  右解雇(以下「本件解雇」という。)の理由は次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五五年三月二四日午後一一時二三分ころ、金沢市西念町ホ一三番地先道路上で酒気帯び運転(以下「本件酒気帯び運転」という。)により検挙された。

(二) しかるに、原告は右の事実を被告会社に報告せず、運転免許停止処分を受けるに至ってもなお、「前年一一月の交通事故で処分がきた」旨虚偽の申告をし、これを隠そうとした。

(三) しかも、原告は、本件酒気帯び運転当時減給処分中であった。即ち、被告は、昭和五五年三月ころ、次のような理由により、原告に対して、同年三月ないし五月の三か月間就業規則六三条二号に規定する減給処分に付していた。

(1) 車庫番勤務放棄

原告は、昭和五四年一一月二二日ころ、車庫番勤務を放棄してその連絡がつかない状態にさせ、かつ、行動経路に反した場所で交通事故を発生させた。即ち、車庫番勤務とは、営業所の車庫に待機していて、電話による客の注文があった場合に直ちにそれに応じられることを目的とした勤務であり、この勤務になると、車庫を出て客を乗せ、目的地に到着したら直ちに車庫に戻らなければならず、原則として車庫方面への客以外は乗せないようになっていたところ、原告は、右の日に車庫番勤務にあたっていたにもかかわらず、午後から夕方にかけて、車庫を出たまま何の連絡もなく戻らなかったばかりか、午後八時すぎには交通事故を起こしたが、その際の進行方向が車庫の方向とは反対であって、行動経路に違反するものであった。

(2) 車両放置示唆

原告は、昭和五四年一二月七日ころ、被告の従業員である森田外三夫(以下「森田」という。)をして被告の営業車両を放置せしめた。即ち、森田が業務中に原告方へ昼食を食べに立ち寄った際、原告の指示によりその営業車をアパートの駐車場に停めておいたため、同駐車場の使用者から被告の方へ抗議の電話があり、右放置車両をわざわざ引き取りに赴かざるをえないことになった。

(3) 住所変更届出義務違反

被告の就業規則一四条には、従業員は現住所の変更があったときは直ちに届出る義務を明記しているのに、原告は、昭和五三年暮ころから現住所を変更していたにもかかわらず、一年以上も被告に通知しなかった。

(四) 原告の酒気帯び運転の行為は、社会的にも非難の大きい行為であり、ましてタクシー運転手としては、たとえ勤務時間外であっても到底許されるはずのものではなく、この点で原告はタクシー運転手として不適格である。しかも、原告は当時減給処分中であったこと、本件酒気帯び運転の事実について虚偽の申告をしたことを併せ考えると、本来なら懲戒解雇されてもやむをえないところであったが、原告の将来を考慮して通常解雇たる本件解雇に及んだものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  抗弁2の(一)の事実は認める。

3  同(二)の事実のうち、本件酒気帯び運転により検挙されたことを被告に報告しなかったことは認めるが、その余は否認する。原告は「昭和五四年一一月の事故に点数が加算され、今度諸々の違反が重なって停止になった」と述べたのであって、酒気帯び運転による減点については伝えていないものの、格別虚偽の事実を述べたことはない。

4  同(三)の冒頭の事実のうち、原告が被告主張の理由により被告主張の内容の減給処分を受けたことは認めるが、その余は争う。原告が右減給処分の通告を受けたのは昭和五五年三月二八日である。

同(三)の(1)の事実のうち、車庫番勤務が営業所の車庫に待機し、電話による客の注文に直ちに応じられることを目的としたものであること、原告が被告主張の日に車庫番勤務にあたっていたこと、原告がその日に交通事故に遭遇したことは認めるが、その余は否認する。被告には、業務命令の性質を有するような車庫番に対する行動経路遵守義務としての規範など存していなかった。むしろ、車庫番勤務者もいわゆる流しの客をとることがしばしばあり、被告としてもこれを容認していたのが実情である。

同(三)の(2)の事実のうち、被告主張の日に森田が業務中原告方へ昼食をとるため立ち寄ったこと、その際森田が自己の運転する営業車を原告のアパートの駐車場に停めたことは認めるが、その余は否認する。

同(三)の(3)の事実は否認する。原告は住所変更のときには被告に転居届を出している。

5  同(四)は争う。

五  再抗弁

本件解雇は、以下の理由により解雇権の濫用であって無効である。

1  本件酒気帯び運転は解雇処分に値するほどのものではない。即ち、

(一) 本件酒気帯び運転並びにこれに先立つ飲酒自体が、いずれも勤務時間外の行為であって、職場秩序維持の観点からみて非難の程度は弱いといえる。

(二) 原告は、職場の同僚の増築工事の手伝いに行き、その同僚宅で当日午後五時ころから約三〇分かけてビール一本半位を飲み、その後酔いをさますために銭湯へ行き、更に約四時間睡眠をとり、飲酒を終えてから約五時間半後に帰宅のため運転を開始しているのであって、その態度は極めて慎重であり、飲酒による影響はなく正常な運転ができると判断して運転を開始したことは、誠にやむをえない結果というべきである。実際酒気帯びの程度が極めて小さいことは、検挙時の検査で一回目では反応が出ず、二回目でようやく反応が出たことから明らかである。

(三) 本件酒気帯び運転により検挙されたことを被告に報告しなかったのは、当時被告が原告に対し異常な労務管理の姿勢を示していたため、酒気帯び運転が被告の知るところとなれば、これを解雇のための恰好の材料として利用する恐れがあると考えたからであり、やむをえない一面がある。

(四) 以上のとおり、本件酒気帯び運転は、原告がタクシー運転手であるとしても、解雇処分に値するものではないというべきである。仮に違反後の原告の対応が被告の主張どおりであったとしても、(一)、(二)の事情を考慮すると、それが本件解雇の正当性を補完しうる事情とはなりえない。

2  被告の主張する減給処分は、それ自体極めて不当なものであって、本件解雇を正当ならしめる事情とはいえない。即ち、

(一) 車庫番勤務当日、原告には被告の主張するような行動経路違反の事実はなく、仮にその事実があったとしても、それが業務命令違反として懲戒処分の対象となりうるような規範性は被告には定着していなかった。また、被告は、原告が当日午後車庫を出たまま連絡をしなかったことをも処分を科すに至った事情として考慮したかのごとく主張しているが、処分通達書にはそのようなことが懲戒事由であることを示す文言は全く存しない。更に、当日の交通事故は、その態様からみて原告の責任はほとんどないといってよく、懲戒処分を受けなければならないようなものではない。

(二) 森田の行為は、停車の目的、態様に照らして何ら問題はなく、いわゆる車両放置というものではない。ましてや、原告のしたことは森田の停車につき差し支えない旨単に合槌を打ったにすぎず、「示唆」といえるようなものではない。原告も森田も、森田の停車した場所は原告が居住するアパートの居住関係者用(来訪者も含めて)の駐車場と勘違いしていたのであるが、これにつき格別非難されるような不注意はなかった。

仮に原告及び森田の行為が被告の主張どおりに該当するとしても、主犯格ともいうべき森田が何ら処分を受けていないのに、原告のみ処分を受けるのは均衡を著しく失するものである。

(三) 被告のいう届出義務違反は全く事実に反するものである。

3  原告は、入社以来真面目に勤務し、その間の運賃収入は他の運転手と比べて決して見劣りするものではなく、むしろ平均額以上の成績を収めていたのであって、原告の勤務態度に問題はなかった。

4  本件解雇の真の動機は、被告がかねてから嫌悪していたタクシー労組の連合体組織である全国自動車交通労働組合石川地方連合会(以下「全自交」という。)に好意と期待を寄せていた原告を、職場から排除せんとしたものである。原告に悪感情を抱いていた被告は、たまたま原告が本件酒気帯び運転で検挙されたことに藉口して、本件解雇に及んだとしか考えられない。このことは、被告が本件酒気帯び運転が真に解雇処分に該当するかにつき慎重な判断を行った形跡が全くないのみならず、原告から本件酒気帯び運転につき具体的内容を何ら事情聴取していないことから明らかである。

六  再抗弁に対する被告の反論

解雇権の濫用であるとの原告の主張は争う。

1  本件酒気帯び運転は、対会社との関係でみれば信頼関係を著しく破壊するものであることは当然で、原告が述べる飲酒後運転に至るまでの経過をもって修復できるようなものではない。勤務時間外であるとの点も、被告がタクシー会社であることを考えれば、弁解とするに足らないことである。しかも、原告は本件酒気帯び運転による検挙につき、何ら反省することなく被告に虚偽の申告をしており、被告としてはかかる原告の態度をも重要視しているのである。なお、原告は虚偽の申告をしたのは会社の労務管理の異常さに起因するとして、その責任を免れようとするが、これは理由にならないことであり、会社の管理体制には何の問題もない。

2  被告が原告を減給処分に付したのは、処分事由のうち車庫番勤務放棄と車両放置示唆が主たるものであるが、そのこと自体の問題もさることながら、被告としては、原告がいずれの場合においても全く反省の態度を見せなかったことを重視しているのである。

3  原告は、被告が全自交に信頼を寄せている原告を職場から排除しようとして、本件解雇に及んだ旨主張するが、原告は全自交に加入しているわけではなく、また、原告が全自交に同情を寄せているかなど被告として知る由もなく、関心の対象にもなっていないのであって、全く的はずれな主張というべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

また、抗弁1の事実についても当事者間に争いがない。

二  本件解雇の理由となった事実関係

1  本件酒気帯び運転について

原告が本件酒気帯び運転により検挙されたこと、原告がこの事実を被告に報告しなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(証拠略)、原告及び被告代表者各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、非番の日である昭和五五年三月二四日、同僚の三浦嘉典の家の増築工事を手伝い、同人宅で午後五時ころから勧められてビール大瓶一本半程を飲み、その後近くの銭湯に行ったが、まだアルコール気があったので、右三浦宅で約四時間仮眠をした。そして、午後一一時過ぎアルコール気もなくなったと判断して同人宅を辞し、自分の車を運転して自宅へ帰る途中、午後一一時二三分ころ酒気帯び運転により検挙された。

(二)  原告は、右酒気帯び運転により昭和五五年四月三日罰金二万五〇〇〇円に処せられたほか、前年の一一月二三日の事故による付加点数があったため、昭和五五年四月一〇日から免停六〇日の処分を受けるに至った。なお、免停の期間は当初九〇日であったが、聴聞の際原告の方で、検挙されたときの状況即ち飲酒検知の結果が二回目にやっと出たくらい酒気帯びの度合が非常に弱かったことを説明して期間の短縮方を申し出たため、六〇日に短縮されたものである。

(三)  原告は、本件酒気帯び運転により検挙された事実を被告に報告せず、免許停止となる昭和五五年四月一〇日になってようやく、被告に対し、前年一一月の事故と合わせて今度の違反で免停になるので一か月休ませてほしい旨電話し、免許停止の事実だけは報告したものの、酒気帯び運転のことについては依然として報告をしなかった。そして、右電話において、原告は、休む理由として前年の事故の後遺症もあるので入院するかもしれないとも言った。

原告がこのように酒気帯び運転による検挙の事実を被告に隠して報告しなかったのは、被告がかねてから自分を余りよく評価していないと思っていたことから、右事実を知れば当然のように解雇処分をしてくるにちがいないと危惧したからであった。その後、被告は警察から右検挙の事実について知らされ、これを原告に問い質したところ、原告は素直に認めた。

以上の事実が認められ、前記証拠中これに反する部分は措信しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  減給処分について

原告が被告主張の減給処分を受けたこと、車庫番勤務が営業所の車庫に待機し、電話による客の注文に直ちに応じられることを目的としたものであること、原告が被告主張の日に車庫番勤務にあたっていたこと、原告がその日に交通事故に遭遇したこと、被告主張の日に森田が業務中原告方へ昼食をとるため立ち寄ったこと、その際森田が自己の運転する営業車を原告のアパートの駐車場に停めたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(証拠略)、原告及び被告代表者各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  車庫番勤務の件について

(1) 原告は、昭和五四年一一月二二日、車庫番勤務にあたっていたところ、午後二時ころ被告本社車庫から客を乗せて出た後午後八時ころまで本社車庫に戻らず、その間原告は、客を行先まで乗せて車庫に戻る途中、客を拾ってまた別の行先まで乗せていくという繰り返しをしていたもので、本社車庫からは無線で呼び出しが何回もあったが、その都度客をどこそこへ案内中である旨応答し、本社車庫配車係の指示で客を案内するということは一切なかった。

(2) 午後八時ころ車庫に戻ってからは、ほぼ車庫番としての仕事を行い、午後九時半ころ配車係の指示で金沢市緑団地まで回送して客を同市東力町まで乗せ、その後同市出雲町にあるガス補給場へ行ってガスを補給し、そして同市西念町にある自宅へ食事をしに向う途中、午後一〇時三〇分ころ同市若宮町内の交差点にて出合頭の衝突事故を起こした。原告は東力町まで客を乗せた後、本社車庫には行先を連絡していなかったが、原告としては、自宅近くに着いてから連絡をするつもりであった。

右事故により、原告の営業車は大破し、原告は怪我をして救急車で病院に担ぎ込まれ、一方被告代表者らは警察の連絡を受けて事故現場に駆けつけ、後の処理を行った。右事故は、信号機のない交差点での出合頭の衝突であるが、原告の方が優先道路であり、その発生原因はほとんど相手方の過失によるものであった。このため、原告は罰金の処分はもちろん反則金も取られず、民事上の問題も相手方が九五パーセント責任を負担するということで解決した。

(3) その後一〇日位して、原告は被告代表者から、開業以来の重大な事故を起こした上、当日車庫番であるにもかかわらず行動経路に反したということで、始末書を書くように言われた。行動経路に反したというのは、被告代表者の話によると、事故の際原告の車が空車であったにもかかわらず、本社車庫に戻る向きとは異なった方向を走行していたというものであった。原告はいずれの点も得心がいかず、始末書を書くことは断わった。

(4) ところで、被告において車庫番勤務というのは、本社車庫に待機していて、車庫にきた客や電話による注文客に直ちに応じられることを目的として設けられたもので、その趣旨からして、この勤務になると、車庫を出て客を案内し、目的地に着いたら速やかに車庫に戻ってきて次の配車を待つというのが一応の建前であった。しかしながら、この点については、車庫番の義務ということで就業規則等に明示の定めがなされていたわけではなく、また、実際にも車庫番勤務の者が車庫に戻る途中客を拾って、帰庫方向とは異なる方面へ客を送ることもしばしばあり、被告からこのことで注意されたり処分を受けたりした前例はなかった。

(二)  車両放置の件について

(1) 昭和五四年一二月七日、森田は業務中原告方で昼食をとるため、営業車を原告の住むアパートの駐車場に停めてロックをして原告方に赴き、一応原告に右駐車につき了解を求めたところ、原告は右駐車場はアパートの住人もしくは来客のために使用できるものと思っていたので、森田には大丈夫である旨答えた。ところが、右駐車場所は、右アパート一階にある会社が専用に借りているところであったため、同会社から被告に苦情がきて、直ちに被告代表者らは右駐車場に出向き、右営業車を引き取っていった。

原告らはそれとは知らず、約一時間後昼食を終えて外に出てみたところ、森田の車がないので右会社の人に尋ねると、右のような経緯であることが分り、早速連れだって被告代表者宅に謝りに行った。

(2) 被告代表者は、森田に対し、大変なことをしてくれたと言って厳しく叱責し、始末書を書くよう告げたが、森田としては始末書を書くほどのことではないと思っていたのでこれを渋り、また原告も自分にも責任があると言って森田をかばったため、話は平行線をたどった。そうこうするうち、被告代表者が原告を両手で押したため原告が柱で頭を打つという事態が起き、これに対し原告が一一〇番に電話をしようとするや、森田が原告をなだめたりするなど悶着が生じたので、被告代表者は従業員の手前上は始末書をもらったことにするからと言ってその場をとりまとめ、二人を放免せざるをえなかった。

(3) ところで、森田が駐車した場所には、別に前記会社の専用であることを窺わせるような表示はなく、原告にしても森田にしても同じ場所に車を停めたことは過去にもあったが、一度も文句を言われたことはなかった。また、翌日森田が右会社に謝りに行った際も、特に厳しく文句を言われた訳ではなかった。

(4) その後この件については原告及び森田とも被告から始末書を書くよう求められないまま経過したが、昭和五五年二月一五日になって、被告代表者は森田の営業車のキーを取り上げてしまい、森田に対しキーがほしければ右の件について始末書を書くよう再度要求してきた。森田は右の件はすでに解決済であるとしてこれを断わったため、結局その日は運転できず、同月一七日、一九日にも同様の事態となった。そこで森田の方で当時加盟していた全自交を通じ、被告の右行為に対し損害賠償を請求したところ、以後は森田に対し始末書を求めることはなくなった。

(三)  転居届の件について

原告は、当時の妻と別居したことから、昭和五三年一一月にそれまでの金沢市平和町から同市西念町に住居を移し、間もなくして被告の専務である達田澄子(被告代表者の妻)にその旨届出ていた。

ところが、前記(一)の交通事故を起こした際、警察の方が原告の住所を元の住所のままになっていた免許証の記載に従って事件の処理手続をしたため、その後原告と連絡がとれず、このことで被告が警察から厳しく注意されたことがあり、被告としては原告が転居届を未だにしていないものと勘違いした。

(四)  減給処分

被告は、原告に対し、車庫番勤務にかかわらず行動経路に反し法令違反の事故を起こしたこと、森田に対し車両放置を示唆したこと、一年以上の間住居変更を届出しなかったことの三点を理由に、三か月間の減給処分にすることにし、その旨の通知は、昭和五五年三月二八日給料支払の際、給料袋に通達書を同封する形でなされた。なお、これに不服の原告は、同年四月一八日被告に対し異議を申し立てた。以上の事実が認められ、前記証拠中これに反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

三  そこで、以上の事実関係をもとに本件解雇の効力について判断する。

1  本件解雇は、被告の主張によれば、本来なら懲戒解雇にすべきところを通常解雇にしたものであるところ、(証拠略)によれば、被告の就業規則二六条一〇号には通常解雇の一事由として「懲戒解雇事由に該当するとき」と規定され、同七三条には懲戒解雇事由として「前二条による懲戒(譴責、減給、乗務停止、降職等)を受けたにもかかわらずなお改悛の見込みがないとき若しくは情状が重いとき」(一号)、「刑事上の罪に問われた者で懲戒解雇することを適当と認めるとき」(六号)、「その他前各号に準ずる違反行為があったとき」(三一号)と規定されていることが認められ、これによれば被告の主張する解雇理由は一応就業規則上の規定に該当するといえる。

2  そこで、すすんで本件解雇が解雇権の濫用にあたるかどうかについて検討する。

(一)  まず、本件酒気帯び運転についてみると、原告は解雇処分に値するほどのものではない旨主張するのに対し、被告は、酒気帯び運転は社会的にも非難が大きく、タクシー運転手として到底許されるはずのものではなく、事情はともあれ被告との信頼関係を著しく破壊するものであり、原告はタクシー運転手として不適格である旨主張する。

たしかに、飲酒運転は、社会的非難も極めて強く、いかなる理由があるにせよ、自動車運転手としては厳に慎しまなければならないものであり、まして、職業上乗客を安全に運ぶことを最大の使命とするタクシー運転手としてはなおさらであり、タクシー会社にとっても、その社会的評価、信用を低下させる可能性は大であって、業務運営上到底許容しえないものであることはいうまでもない。

しかしながら、タクシー運転手である以上、酒気帯び運転をすればそれだけで当然に解雇が相当であるとまで断ずるのは、甚だ妥当を欠くものであり、当該酒気帯び運転の内容、前後の事情、業務中か否か、会社に与えた具体的影響等をも総合考慮した上で、解雇にすべきか否かを判断すべきである。

これを本件についてみると、前記二の1で認定の諸事実によれば、本件酒気帯び運転は原告の非番の日になされたものであり、かつ、運転した車は被告営業車ではなく原告個人の自家用車であること、原告は自らすすんで飲酒をしたものではないこと、また飲酒後直ちに運転を始めたわけではなく、入浴し、約四時間の仮眠をするなどアルコール気を抜くよう努力し、一応大丈夫との自己判断の上で運転を始めていること、そのためか運転後約二〇分して検挙された際、酒気帯びの程度はかなり弱かったこと、比較的軽い罰金刑ですんでいるのみならず、聴聞の結果免停の期間が減縮されていることなどが認められ、他面、本件酒気帯び運転が新聞沙汰になるなどして具体的に被告の社会的信用に悪影響を与えたことを認めるに足る証拠はないこと、以上によれば、本件酒気帯び運転自体は、他のより軽い懲戒処分の対象になることはあっても、解雇の対象とすることは相当でないといわなければならない。

(二)  次に、被告は、原告が本件酒気帯び運転による検挙の事実を報告しなかったばかりか、ことさら虚偽の事実を述べたのは、反省のなさを示すものであるとして、本件解雇の正当性を補強する事情があるかのごとく主張する。

前記二の1で認定したところによれば、原告が被告に本件酒気帯び運転について報告せず、免停の事実も免停初日になってやっと報告したことが認められ、これは、理由はともあれ、違反後の対応としては甚だ妥当を欠き、反省の態度がみられないといわれても仕方がない面があるのみならず、タクシー会社である被告に対して乗務員のやりくり等で非常に困らせることになることは目に見えており、原告の情状としては看過しがたい点のあることは否定しがたい。

しかしながら、(1)前認定のとおり、本件酒気帯び運転の事実を述べなかったのは被告による解雇をおそれていたためであって、決して悪意に基づくものではないこと、(2)そして証人三浦嘉典、同森田外三夫の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が達田タクシー労働組合の組合員でありながら、ごく一部の全自交加盟の者らと行動を共にし、何かと被告の労務管理につき批判的な姿勢を示していたことが認められ、被告にとって原告は好ましからざる従業員と考えられていたことが窺われ、現に後記のとおり不当な減給処分をしてきていることなどに照らすと、原告が右のように解雇をおそれて本件酒気帯び運転の事実を隠そうとしたことは、一概には責められないこと、(3)また前認定のとおり被告に本件酒気帯び運転の事実が知れてからは、原告は素直にこれを認め、ことさらな弁解を試みていないこと(証人達田澄子は、原告が本件酒気帯び運転の事実を質された際、「運が悪かった。」と述べ、他にも酒気帯び運転をやっているかのように窺われた旨供述しているが、他にこれを裏付けるような証拠もなく、にわかに措信しがたい。)などに鑑みると、本件酒気帯び運転の事実に加えて原告の前記情状をもってしても、当然に解雇処分が相当であるとはいいがたい。

(三)  さらに被告は、本件酒気帯び運転当時減給処分中であった旨主張するけれども、前認定のとおり原告に減給処分が告知されたのは昭和五五年三月二八日であって、本件酒気帯び運転の後であり、右主張は失当である。

のみならず、右減給処分の事由をみてみると、(1)まず車庫番勤務放棄については、前認定によれば、車庫番勤務の建前からいくと、たしかに原告の当日の行動の中には問題と思われる点もあるが、被告において車庫番につき行動経路遵守の義務が就業規則等に定められておらず、かつ、これまでに程度の差はあれ他にも同様の行動をとった者がいたにもかかわらず、被告の方で注意したり処分したりしたことがなく、半ば容認していたことに照らすと、とりたてて懲戒処分の対象にすべきほどの事情があるとまでは考えがたいし、当日の交通事故についても、その責任はほとんど相手方にあることからして、同じく懲戒処分就中減給処分の対象にするのは相当ではないと思われること、(2)車両放置示唆についても、前認定によれば、森田の行為はその目的、態様からいって、車両放置に該当するようなものとはいいがたく、ましてや原告の行為がその車両放置の示唆にあたるというのは事態の正当な把握とは到底いえないこと、(3)届出義務違反についても、前認定のとおり被告の勘違いによる明らかな事実誤認であることが指摘でき、いずれの事由も減給処分の事由としては問題があるといわなければならない。

被告は、減給処分を行うについては、右各事由につき原告が素直に反省しなかったことも重視した旨主張する。しかして、前認定によれば、車庫番勤務放棄と車両放置示唆の件については、被告が原告に始末書を求めたのに対し、原告がこれを断わり反発的な態度を示したことが認められるが、右のとおり被告の取り上げる事由自体に問題がある以上、原告の態度を無反省として非難するのはいささか筋違いというべきである。

以上のとおり、右減給処分自体が相当とは認めがたいものであるから、この処分を受けたことをもって、本件解雇の正当性を補強する事情ともなしがたい。

(四)  なお、(証拠略)によれば、原告が減給処分を受けたにもかかわらず、全く反省の態度を示すことなく、むしろ事実を否定するかのごとき言動を行っているとして、このことをも本件解雇の一事由としているように窺えるが、これまた減給処分が相当でない以上、原告が右の行動に出たとしても非難しうるものではなく、本件解雇の理由たりえない。

(五)  以上(一)ないし(四)の諸点に加えて、原告及び被告代表者各本人尋問の結果によれば、原告が被告従業員の中で運収が良かったことが認められるので、これも併せ総合考慮すると、被告主張の事由をもって解雇処分に付すのは相当性を欠くものといわざるをえないので、本件解雇は解雇権の濫用というべきである。

3  従って、本件解雇は無効であるといわなければならない。

四  (証拠略)、原告及び被告代表者各本人尋問の結果によれば、被告の賃金システムはいわゆる成果配分方式であって、一か月の運賃収入から、一定の管理費とガス代等の経費を差し引いた分を支給すること、その支給日は毎月二八日であること、原告の昭和五五年一月から三月までの支給額は、順次三五万二六六八円、二七万六九五四円、二四万三六〇三円であって、その平均月額は二九万一〇八一円であることが認められ、これによれば請求原因3は理由がある。

五  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本栄一 裁判官 森高重久 裁判官 毛利晴光)

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